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第二十二話 この男、まさかロマンス詐欺……?!

Author: すずかん
last update publish date: 2026-11-04 14:43:02
……いや、待って。

 彼の指が離れた頬に、冷たい海風が触れた。

 熱を持ったそこだけが妙にはっきりと感じられて、私はようやく、自分が初対面の人に頬を撫でられたのだと理解した。

 さっきまで、その距離の近さにどきどきしていた。

 けれど、胸の高鳴りが少し落ち着いてくると、今度は頭のどこかで、小さな警報が鳴り始めた。

 夜の海。落ち込んでいる私。突然現れた、やたらと顔のいい男の人。

 しかも、声をかけるだけにとどまらず、腕を引いて、顔を覗き込んで、頬にまで触れてくる。

 ……そんなこと、ある?

 彼の肩越しに、海沿いの街灯が見えた。その向こうには人影もなく、波の音ばかりが途切れずに聞こえている。

 さっきまでは漫画みたいだなんて浮かれていたけれど、冷静に考えれば、話ができすぎていた。

 何より私は、この人の名前すら知らない。

 人というものは、自分の想像を大きく超える出来事に遭遇すると、素直に喜ぶより先に、何か裏があるのではと疑ってしまうらしい。

 少なくとも、今の私はそうだった。

 ……新手の詐欺?

 そう思った途端、目の前の優しげな顔まで、別の意味を持ち始め
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    ……いや、待って。  彼の指が離れた頬に、冷たい海風が触れた。  熱を持ったそこだけが妙にはっきりと感じられて、私はようやく、自分が初対面の人に頬を撫でられたのだと理解した。  さっきまで、その距離の近さにどきどきしていた。  けれど、胸の高鳴りが少し落ち着いてくると、今度は頭のどこかで、小さな警報が鳴り始めた。  夜の海。落ち込んでいる私。突然現れた、やたらと顔のいい男の人。  しかも、声をかけるだけにとどまらず、腕を引いて、顔を覗き込んで、頬にまで触れてくる。  ……そんなこと、ある?  彼の肩越しに、海沿いの街灯が見えた。その向こうには人影もなく、波の音ばかりが途切れずに聞こえている。  さっきまでは漫画みたいだなんて浮かれていたけれど、冷静に考えれば、話ができすぎていた。  何より私は、この人の名前すら知らない。  人というものは、自分の想像を大きく超える出来事に遭遇すると、素直に喜ぶより先に、何か裏があるのではと疑ってしまうらしい。  少なくとも、今の私はそうだった。  ……新手の詐欺?  そう思った途端、目の前の優しげな顔まで、別の意味を持ち始めた。  弱っている女に声をかけて、親身に話を聞いて、ころっと好きにさせたところで、お金を要求する。  いる。そういう人、絶対にいる。  むしろ、こういう人なら向いていそうだ。こんな顔で真剣に見つめられて、「君にしか頼めない」なんて言われたら。  ……いや、頼まれる前から想像してどうするの。  私は唇をきゅっと結んだ。  そのうち「実は会社が大変で」とか、「ふたりの将来のために」とか言いだすんじゃないだろうか。  危ない。  会社の経営状況を聞く前に、もう少しで好きになるところだった。  急に、自分と彼の間にある距離が気になった。  手を伸ばせば、また触れられる。そのことに気づくと、考えるより先に足が動いていた。  一歩、二歩。  靴底が地面を擦る音が、波の音に紛れた。  私が離れた分だけ、彼の表情がよく見えるようになった。驚いたように目を見開いて、頬のそばに残っていた手を、ゆっくりと下ろしている。 「あ……す、すまない」  彼もすぐに一歩引いた。  追いかけるように近づいてくるのではなく、自分から距離を空けたことに、ひとまず息がつけた。 「突然触れたり

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    スマホの画面が暗くなった。  そこに映った自分の顔を見て、ようやく、ひどい顔をしていることに気づいた。  今すぐ誰かと繋がりたかった。  今日あったことを話して、どうでもいいことで笑って、眠る前に「おやすみ」って言いたかった。  ホテルの部屋は綺麗だった。ご飯もおいしかった。  それでも、夜になると寂しかった。  ひとりって最高だと思ったのも、本当だったのに。 「……めんどくさいなあ、私」  笑おうとして、うまくいかなかった。  好きなら、思いきり好きでいたい。  会いたいのを我慢して、連絡したいのを我慢して、平気なふりをしながら、ほどほどに好きでいるなんて、私には難しかった。  だから離れたのに。  離れたら離れたで、こんなに会いたい。  私はスマホを握ったまま、歩き出した。  帰ったら仕事をしなきゃ。これからの収入も、生活も、ちゃんと考えなきゃいけない。  いつまでもホテルに泊まって、おいしいものを食べているわけにはいかない。帰る日は来るし、支払いだって待っている。  考えただけで、気が重くなった。  前は、もうひと踏ん張りすれば会いに行けると思うだけで、仕事を頑張れた。  喜んでもらえるなら、何かしてあげたい。次はもっと可愛い服で会いたい。  疲れていても、その先に楽しみがあれば頑張れた。  自分のために頑張ればいい。  頭ではわかっているのに、その自分が今、三人に会いたがっている。  何をしているんだろう、私は。  自由になったら、やりたいことがいくらでも浮かんでくると思っていた。  でも、いざ誰と会う予定もないカレンダーを見ると、どこから埋めたらいいのかわからなかった。  私のことを待っている人がいない。  それを寂しいと思ってしまう。  必要とされると、負担だったくせに。  もう放っておいてって、思っていたくせに。  スマホを持ち直して、画面をつけた。  ここで連絡したら、きっと私は「寂しかった」と言ってしまう。  あんなに嫌だったことを、ちゃんと話すより先に。  どうしてわかってくれなかったの、と責めたい気持ちもある。でも、優しい声で名前を呼ばれたら、きっと泣いてしまう。  会いたかったと言われたら、私も、と答えてしまう。  それで満足して、また会う約束をする。  今はそれだけでいい

  • もう、男に尽くすのはやめる! 〜愛するのをやめたら、今さら3人の男たちに追いかけられました〜   第十九話 せっかく離れたのに

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  • もう、男に尽くすのはやめる! 〜愛するのをやめたら、今さら3人の男たちに追いかけられました〜   第十八話 ある夜の悪夢

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